浦和地方裁判所 昭和53年(行ク)7号 決定 1978年10月28日
申立人
太田博子
相手方
埼玉県朝霞警察署長
主文
本件効力停止の申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一本件申立の趣旨および理由は別紙(一)のとおりであり、これに対する相手方の意見は別紙(二)のとおりである。
二本件記録によれば申立人が相手方に対し、申立人主張のとおりの道路使用許可申請をなしたこと、これに対し、相手方が申立人に対し昭和五三年一〇月二七目付をもつて、許可申請区間のうち新座市栄四丁目一番二六号先(通称セコニック東京工場前交差点)から朝霞市栄町五丁目五番地三七号先(通称旧ノースキヤンプ正門前交差点)までの間の道路部分(以下「本件道路部分」という。)の道路使用を不許可(以下「本件一部不許可処分」という。)とし、その余の行進区間については別紙(三)記載のとおり道路使用許可条件を付したうえ、これを許可したこと。
申立人が相手方を被告として、本件一部不許可処分の取消しを求める訴えを提起し(当裁判所昭和五三年(行ウ)第一七号道路使用不許可処分取消請求事件)右本案判決の確定に至るまで、本件一部不許可処分の効力の停止を求めるため本申立に及んだことが認められる。
三(本件不許可県道部分の位置・幅員および施設)
本件疎明によれば本件不許可処分とした県道の区間は、新座市栄四丁目一番二六号先(以下「セコニツク交差点」という。)から、朝霞市栄町五丁目五番三七号先(旧ノースキヤンプ正門前)までの約一、五二三メートル(申請コースのうち三八パーセント)に及ぶ区間であること。
前記セコニツク交差点から栄小学校東側交差点までの区間は、約二八七メートルで、デモの進行方向からみて、東に直角にカーブしており、その全幅員は九メートルのアスフアルトの舗装道路であること。
同区間の安全施設としては道路北側に高さ二五センチメートル幅二〇センチメートルのコンクリート製の縁石とガードパイプによつて区画された歩道部分(一部自転車道)があり、その幅員は約1.5メートルとなつていること。
道路南側にはガードレールが設置され、その幅員は1.5メートルであること。
栄小学校入口交差点から税務大学前交差点までの間は約一、一四六メートルであり、該道路の全幅員は一一メートル、両側に歩道が設けられ、観閲式場の入口である第四ないし第一ゲートに面していること。
道路の西側は自衛隊朝霞訓練場(式典会場)となつており、東側は米軍から返還された跡地となつており人家は全くないこと。
この県道は、これまで両側に約1.5メートルの路側帯により、歩道が設けられていたが、本年八月該歩道部分が一部を残して従来の路側帯から高さ二五センチメートル、幅一八センチメートルのコンクリートの縁石で歩道部分として幅員約1.7メートルずつに整備されたため車両通行部分が片側一車線3.8メートルとなり、昨年よりその幅員が約二〇センチメートルずつ狭隘となつたため通常日の交通の流れは昨年に比べ渋滞ぎみになつていることが認められる。
四(右道路部分の交通量)
本件疎明によれば
本件県道は、朝霞方面から、東京石神井方面へ、またはその逆に東京方面から朝霞方面(デモ申請の往路方向)への主要道路として車両の通行も多いこと。
最近の通常日における交通量は午前七時から午後五時まで自動車八、六九〇両、二輪車三五五両、自転車三七〇両、歩行者一一九名であること。
日祭日の交通量は通常日の約八〇パーセントでやや少ない状況であること。
また、県道の「演習場前バス停留所」における定期バスの運行表によると大泉学園駅行七九回(日祭日六〇回)、朝霞駅七九回(日祭日六〇回)、上石神井駅行五〇回(日祭日四四回)運行している状況にあること。
また税務大学前において交差する国道二五四号の交通量は、通常日が午前七時から午後五時までの間に、自動車上り一三、九九九両、下り一五、三四七両、日祭日が、上り一一、七六一両、下り一二、四三四両という状況で、年々増加の傾向を示していることが認められる。
五(特殊事情)
自衛隊の観閲式当日一〇月二九日には、前記交通量に加えて、観閲式関係の人出が相当あることが予想され、また、式を見るために観閲式の見える道路において、人が立つたり、車が徐行ないしは一時停止することも予想されるので、通常日以上の交通渋滞が予想される。
六(本件集団示威行進が道路交通法七七条二項一号・二号に該当するか否かについての判断)
1 本件集団示威行進は、右認定の事情からみてなんらの規制もなく行なわれるときには、現に交通の妨害となるおそれがないと認められる場合には該当しない。
2 しかしながら、本件集団示威行進が、本件許可に付された別紙(三)記載の条件に従つて行なわれるのであれば、本件県道の幅員からして、適切な交通整理がなされることにより、交通の妨害となるおそれがなくなると認められる。
よつて、道交法七七条二項二号に該当するものということができる。
七(本件申立却下の理由)
しかしながら、以下に述べる理由により、本件集団示威行進は、その許可条件に従つて行われない危険性が強く、それによつて交通妨害発生の危険が明白に予見できる。
申立人は、本件集団示威行進の参加人員は二三人程度の主婦および市民のグループであり、参加者中には子供連れで参加する者もかなりいるから、自ら進んで交通の妨害や危険を招来する行動に出ることは予想できないというけれども、デモの参加人員はきわめて不確定要素が強く、東京北部労働者実行委員会(革労協・入力派系)、埼玉県反戦青年委員会、埼玉県労働運動研究会(第四インター日本支部系)、東京叛軍行動委員会(蜂起派系)及び全学連系の多数の押しかけ参加が予想され、これらに対し、申立人が統制を行うことができるとは到底考えられない。
従つて、本件集団示威行進が本件不許可道路部分で行なわれる場合は一般の交通の阻害および不測の事態の生ずるおそれがあるものと認められる。
八本件集団示威行進が、道路交通法七七条二項三号にいう公益上やむをえないものにあたらないことも明らかである。
してみると本件一部不許可処分は適法であるから、本案について理由がないとみえるときにあたるというべきである。
よつて、本件効力停止の申立はその余の点について判断するまでもなく理由がないから却下することとし、申立費用につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(石藤太郎 村上和之 並木正男)
別紙(一)、別紙(二)及び別紙(三)<略>